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合歓の郷の一日

デイサービスセンター合歓の郷の利用者さん(99才)が、自分の人生を記録しておきたいと自分史を書いておられるので紹介します。

 

「合歓の郷の一日」

毎週木曜日、迎えの車で合歓の郷に行きます。到着して運転して下さった方に「ありがとうございました」と礼を言って降りる。

先ず洗面所に行き、洗剤で手を洗います。月の始めに毎月体重測定があり、終って「お早うございます」と言って、机に座っていると昆布茶と番茶を持って来てくださいます。各自好きな飲み物をお願いして、コーヒーの方もココアの好きな方もおられます。

待っていると看護師さんが体温と血圧を測って下さいます。私は時々血圧が高い時がありしばらく休んで、深呼吸して測ってもらうことがある。

十時をすぎて体操をするため窓際の椅子に移動します。数名で看護師さんの指導のもと個別に応じた体操をします。寒くなって家で炬燵で横になっている身体には、手足が思うように動かない。でも自分のことだと思って一生懸命動かす。歩くことも不自由になり、今では畑に出ることもできない身体になってしまった。あちらこちら痛いが我慢して一、二、三、四と数をかぞえながら手足をうごかす。

体操を終ってお風呂に歩いて行きます。四人しか入れないので、待っている間按摩器があいていれば、按摩器に座って按摩をしてもらいます。肩から背中を揉んでもらい気持ちがいい。女の人も交代で按摩器のお世話になっている。

お風呂に入られるようになると職員の方が呼んで下さいます。脱衣場に入って椅子に座り、かごに衣服を脱いで入れる。自分一人で衣服を脱げるので職員さんのお世話にならなくても出来る。裸になって浴室に入り椅子に座ってシャワーで頭からお湯をかぶる。頭を洗ってタオルに洗剤をつけていると、職員の方が背中を流してあげましょうかと、声をかけて下さいます。親切に、ありがたく思うが、「儂はええけーな。自分で洗えるけなー」とお断りしている。自分でまだ洗える。

私はかつてソ連で三年間抑留されたことがあっていつもシャワーでお湯をかぶると思い出す。抑留中、年に一度ぐらい街のシャワーのある処に連れて行ってくれた。収容所にはそうしたシャワーの設備もなくて、身体を洗うことは出来なかった。着ていた服や下着を洗うこともなく、三年間虱(しらみ)血を吸われて苦しんだ。シャワーのある処で着ていた服や下着を針金につるして熱風消毒で虱を殺した。そうした思い出をいつも洗い乍ら思い出している。

身体を洗い終ると、シャワーできれいに洗い流して、お風呂に入らしてもらう。いつも職員の方がお湯の温度に気をつかって下さって、足からお湯につかる。「いい湯だな〜」と言いながら入らしてもらう。昭和廿三年の十月抑留から日本に帰って来た。舞鶴の港の桟橋に降りて、援護局のお風呂に入らしてもらった時、はじめて生きて日本に帰れた喜びをあじわった。ソ連に連れて行かれて丸三年あまり、一度も風呂に入っていない。ソ連でのシャワーは身体を洗うのが精一杯で。すぐシャワーが止る。ゆっくりシャワーも浴びることが出来なかった。便りを出すこともできなかった三年間、生きていることさえも伝えることが出来ず今こうしてゆっくりお風呂に入らしてもらっている。

思い出しながら、一人でお風呂に入っている時には私はいつも湯船につかりながら「うさぎ追いしかの山 小ぶなつりしかの川 夢はいまもめぐりて 忘れがたきふるさと」とふるさとの歌を唄う。今日も又お風呂に入らしてもらって感謝の気持と、うれしい気持で唄っている。

十月の今頃だったなあーと舞鶴でお風呂に入らしてもらったのは、と思い出しながらゆっくり入らしてもらった。湯舟を出てシャワーで身体に流しながら、終って身体を拭きながら浴室を出る。脱衣場で衣服を着る時、いつも看護師さんが右足の怪我を見て下さって、心配してもらって感謝しています。脱衣場を出る時、私はいつも職員の方に「ありがとうございました」と一声かけて出る。お風呂上がりに椅子に座ってお茶を一杯いただく。

お昼前私は時々ハーモニカを出して吹く。はじめはいつも「ふるさと」次に思い出した曲を二、三曲吹く。人の前では迷惑だと思って、人の邪魔にならないようにと思って一人静かに吹く。

十二時になると簡単な体操をする。手を消毒してもらってお昼ご飯をいただく。食べ終わると私はいつも椅子に座ってテレビを見ながら居眠りをしている。

二時半になると昼寝をしていた人もみな起きて体操する日もあればみんなでゲームをして楽しむこともある。私は要支援1で三時過ぎにはお茶とお菓子をいただき帰る準備をする。職員の皆さんに頭を下げて、車に乗る。お見送りをいただき「ありがとうございました」と合歓の郷をあとにします。

私の合歓の郷の一日を描きました。職員の皆さんにやさしくして頂き感謝して御礼を申し上げます。